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ep17 政争(2)

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-04-11 07:01:25
広々とした玉座の間は、にわかにザワついてくる。

重臣たちの表情は二通りに割れていた。微笑を浮かべるドリーブ派と、険しい顔をするディリアス派(伝統派)に。

昨夜の会議においても、伝統を重んじるディリアス派は王女の政略結婚には極めて慎重だった。一方でドリーブ派は、使える手段は何でも使うべきという姿勢だった。

両派とも、対立するのは今に始まったことではない。もはや国王の権力が衰退してしまったこの国では、力のある閣僚同士の争いの勝者が、国家運営を決定付けていた。

「もう解散だ!」

たまりかねたディリアスが手を挙げて閉会宣言を告げた。閣僚とはいえ、今のディリアスは国王代理。客観的にも実質的にもドリーブよりも立場が上だ。

それでも臣下の者たちは動こうとしなかった。ドリーブの提案に興味を示さざるを得ないのだ。現在の国の窮状は誰もがよくわかっている。王女の政略結婚が、現状を打破する有効な手段であることは否定できない。

「ドリーブ侯!具体的にどのように実現するのですか!?」

しまいにはそんな声までもが飛んできた。

「五百年間の眠りから覚めた唯一の正統なる王女殿下を、友好国とはいえ他国の王子と結婚させるなど許されるのですか!?」

ディリアス派からも声が上がる。これを皮切りに場内は騒然となった。

当のリザレリスは「政略結婚ってマジバナだったのか?」とディリアスに詰め寄る。

「王女殿下。違うのです」ディリアスは否定するが、もはや彼にも場を抑えられない状況になっていた。

策略通りのドリーブは、王女殿下の面前で勝ち誇った顔で立ち上がり、振り返った。そして紛糾する玉座の間にいる全員に向かい、大演説をぶつ。

「ディリアス公をはじめとした伝統派は、王女殿下の政略結婚には反対です。わかります。わかりますよ。私にも我が国の伝統を重んじる心は当然あります。どんなに国が衰退しても、守らなければならないモノというのは必ずあります。外交を担うものとして他国へ訪問する機会の多い私だからこそ思います」

巧妙なドリーブは、決してディリアス派を真っ向から否定も批判もしない言い方を心得ていた。よく言えば相手の尊重であり、悪く言えばズル賢い。

「しかし皆さん。よくよく考えてみてください。我が国の建国の歴史を。そもそも我が国は、当時のウィーンクルム王女と婚姻を結んだヴェスペリオ・リヒャルト・ブラッドヘルム王によって建国された
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    【3】「吸血姫の復活だぁー!!」翌日は朝からお祭り騒ぎとなっていた。昨日もそうだったが、今日は熱気の度合いが違う。『五百年間の長き眠りからの吸血姫の復活』それが真の意味で成された。昨日のリザレリスの醜態は完全に覆された。赤飯を炊けー!という叫びが聞こえてきそうな城内の盛り上がりは、またたく間に国中にも波及していった。「な、なんか、ハズいんだけど......」再び玉座に座らされたリザレリスは、肩をすぼめてうつむいた。王女の隣に寄りそって立つディリアスは感慨深く息をつく。「本当に、良かったです」同様に玉座の御前に並ぶ廷臣たちもうんうんと頷く。ますます戸惑いを募らせるリザレリスは、助けを求めるようにディリアスの腕を掴んだ。「な、なあ。あいつはどこにいるんだ?」「あいつ、とは?」「エミルだよ」「彼はまだ医務室で休んでいるはずですが」「本当に大丈夫なのか?」「ええ。問題はございません」「なら、いいけど」「気になるのですか?」「だ、だって、俺...わたしが血を吸ったから」「それが生け贄としての彼の役割なのです」「そ、そりゃそうだけど」「お気に召したのですか?」「お、お気に召したっていうか、あいつイイ奴っぽいし」リザレリスの言葉に、ディリアスの眼鏡の奥の目がキランと光る。「王女殿下がお望みなら、彼を男妾にしていただいてもよろしいのですよ」「だ、だんしょう??」聞いたことのない言葉だったが、リザレリスはすぐに意味を理解した。彼女に宿る前世の男は遊び人。物事を深く考えない割には、そういうモノへのアンテナだけは敏感だった。「そ、それは......」リザレリスは変な気分になる。女に生まれ変わったばかりの彼女には、まだ女としての心構えができていない。だからこそ昨夜「政略結婚」というワードを耳にして、生粋の女以上に気が動転してしまったとも言える。しかし今のリザレリスの心の中には、また別の感情も存在していた。「エミルには、そういうのは違う気がする......」リザレリスは神妙に言った。それは女遊びに明け暮れた前世の人格から出た心の声だった。前世でも、遊び人だったからこそ「遊んではいけない娘」は避けていた。それは危機管理であり、遊び人なりの一応の良心でもあった。とはいえやがてはミスを犯し、最終的には恨まれて刺殺されて転生して今

  • 転生吸血姫   ep14 夢

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  • 転生吸血姫   ep13 吸血姫

    「それ以来、ディリアス様は入室を許してくださいました。それも理由があってのことではありますが。そうして私の心は......その日から王女殿下の美しい寝顔を見ることにより、平穏さを保つようになったのです」......語り終えたエミルは、もう死んでもいいとでも言いたげに、感極まっていた。夜空には煌々と満月が浮かび、数えきれない星々が瞬いている。夜風がリザレリスの頬をそっと撫でた。その時、風に飛ばされたしずくがきらめいた。「お、王女殿下!?」エミルは、ハッとする。リザレリスの頬に一筋の涙が光っていたから。「あ、あれ?」リザレリスは頬をぬぐう。自分でも気づかなかった。ただ、ひどく悲しい映画を観た直後のような脱力感に満たされていた。遊び人だった前世の人格にも、このような感受性は備わっていた。むしろ案外涙もろいところもあった。なので、エミルの話は少々刺激が強過ぎたのかもしれない。「も、申し訳ございません。私がつまらない話を長々としたばかりに。つい王女殿下の前で舞い上がり過ぎてしまいました」どうして良いかわからず、エミルは深々と頭を下げた。まさか自分ごときの話に、王女殿下が涙を流されるわけ

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